人形佐七捕物帳148
夢遊病の影には必ずトリックが
「夜歩き娘」（横溝正史）
（「完本 人形佐七捕物帳九」）
春陽堂書店
佐七が弁天お蝶から
頼まれたのは、
柏屋で起きた父親殺しの一件を
調べて欲しいということだった。
下手人として
捕らえられたお里は、
そのようなことをする娘では
ないのだという。だが、
そのお里には夢遊病の癖があり、
その夜も…。
横溝正史の人形佐七捕物帳
第一四八話です。
冒頭、浅草の町の店々で悪戯を繰り返す
お高祖頭巾の女を追ってみると、
待ち受けていたのが弁天お蝶。
彼女は涙ながらに
佐七に相談を持ち掛けるのです。
｢そんな回りくどいことをせずに、
直接依頼しに行けばいいのに｣などと
野暮な突っ込みを入れてはいけません。
これが演出なのです。
【捕物帳一四八｢夜歩き娘｣】
柏屋重兵衛
…地紙問屋主人。何者かに殺害される。
お里
…重兵衛の娘。
父親殺しの容疑で捕縛されている。
美濃屋十三郎
…両替屋美濃屋の次男坊。
お里と縁談が決まっていた。
治兵衛
…美濃屋の大番頭。
お町
…重兵衛の娘。お里の妹。
お槇
…柏屋の女中。
深川の寮に療養中のお里に付き添う。
太兵衛…柏屋の番頭。
角太郎…柏屋の手代。
駿河屋八郎右衛門
…重兵衛の亡き妻･お浅の兄。
河内屋与兵衛
…生薬屋河内屋の若旦那。道楽者。
お町に惚れている。
弁天お蝶
…かつての巾着切り。柏屋の事件の
再捜査を佐七に依頼する。
松蔵…お蝶の子分。
鳥越の茂平次
…十手持ち。海坊主という綽名がある。
辰･豆六…佐七の乾分。
佐七…人形佐七と呼ばれる御用聞き。
本作品の味わいどころ①
お里の夢遊病に潜むトリックは？
｢夜遊び娘｣は単なる不良娘ですが、
｢夜歩き娘｣は夢遊病なのです。
夢遊病は横溝がよく用いる設定であり、
金田一耕助シリーズの｢夜歩く｣が
もっとも有名なところでしょうか。
夢遊病のやっかいな点は、
単に歩き回るだけでなく、
その間の記憶が欠落し、
何をしていたか自身もよく
理解できないところにあるのです。
さて、本作品の夢遊病者･お里は
自分の父親を殺したのか？
夢遊病の影には
必ずトリックが潜んでいます。
それが本作品の
第一の味わいどころです。
本作品の味わいどころ②
お町に集まる人間、悪者は誰？
父親が殺され、
姉がその下手人として捕縛され、
残されたお町の周囲には
多くの人間が集まります。
女中のお槇と手代の角太郎が
身の回りの世話をするのは当然として、
何やら怪しげな面々が顔を覗かせます。
叔父にあたる八郎右衛門は
角太郎と何やら
ひそひそ話をしているし、
若旦那･与兵衛が言い寄ってきます。
さて、悪者は誰？
本作品の味わいどころ③
弁天お蝶とお里の関係は？
そもそも弁天お蝶は
なぜこの一件を佐七に依頼したのか？
お蝶とお里は一体どんな関係が？
それはなんとなく
予想がついてしまうのですが、
お里が冤罪であるにもかかわらず
罪を認めている理由に、
それは繋がってくるのです。
お里は誰をかばっているのか？
重兵衛を殺害した真犯人は
いったい誰なのか？
実は最後に真犯人を炙り出すのは
お蝶であり、
佐七はその直後に現場に踏み込み、
真の下手人を取り押さえます。
依頼人に先を越された形になり、
いささか佐七の価値が
減じた形になっているのですが、
筋書きを盛り上げる演出でしょうから
仕方ありません。
最後は無事上手く収まり、
佐七捕物帳ならではの
円満解決となっています。
捕物帳は捕物帳独自の
面白さがあります。
人形佐七捕物帳は金田一や
由利･三津木シリーズに負けない
味わいがあるのです。
ぜひご賞味あれ。
〔「完本 人形佐七捕物帳九」〕
夜歩き娘
お時計献上
ふたり市子
蛇性の淫
蛇使い浪人
色八卦
舟幽霊
たぬき女郎
どくろ祝言
猫と女行者
かくし念仏
春姿七福神
初春笑い薬
悪魔の富籤
呪いの畳針
若衆かつら
花見の仇討
五つめの鍾馗
遠眼鏡の殿様
〔人形佐七捕物帳はいかがですか〕
〔横溝ミステリをどうぞ〕
（2023.7.7）
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